簡易な小説2−1
少女とハコ
少女は久しぶりの食事をした。満足する食事だ。
缶詰のビーフシチューに缶詰のパンそれらを開けてかじりついた。
今まで食べてきたものは生存に必要なものであって料理や食事ではなかった。
いわば作業だったのだ。
顎を動かし、硬いぼそぼそとしたパンを食べて自身の血肉にするそういった作業だ。
それがビーフシチューとレーズンの入ったパンという今の時代には手に入らなくなった貴重品を食べることで少女は食事を手にしたのだ。
あの大男、世界が変わってしまった全く不可逆的に変わってしまったことに全く気付かず地下で暮らし続けているあの大男がそんな大したものではないと言ってよこしたビーフシチューの缶詰。
それをすっかり食べ終えると缶の内側に残っているビーフシチューのたれをパンでこそぎとって食べた。
指についたわずかな物も残さない食べ方で完璧に食べると少女はまるで10年ぶりの安堵を得たかのようなとした心地になった。
ねぇハコ、これからどうしようか。
鞄いっぱいの缶詰をもらったけど、ここにはいつまでもいられない。
いても仕方ない。
ここに居られたら多分ご飯には困らない、ずっと困らない理由も何でかも分からないけど多分困らないわ。
でもずっとここにいたら、この美味しかった缶詰も作業になってしまう気がするの。
ただ顎を動かすためだけ、ただ自分を維持するためだけのただの作業に。
トゥルルトゥルル。
ハコは頷いた。
そうだその通りだあの男を見れば分かる。
とりあえずずっと永遠に地下に居続けるだろう。
そして飢え死にしない水と食料を抱えていつか来るであろう最後の時まで何にも興味を持たず、ただただ咀嚼と排泄を繰り返す日々を送るだろう。
それは生きているだろうか?。
外は過酷な環境である。寒さは厳しく食料もない綺麗な水も限定的な終末的な世界。
実る事をを忘れた木々達と色づくことを忘れた花達が力なく立っているそんな世界だ。
だがそんな世界でも、降り積もる灰色の雪の中でさえ緑の若葉がわずかに生える時がある。
何か必死に抗い生きようとしている若葉、それを見るだけで多分この完全に安全な汚染されていないコンクリートの地下にいるよりも生きていると少女は実感しているのだろう。
それを理解できている。
ここは生きながらに死んでいるかもしれない場所だと少女は理解している。
ほんの少し渡り鳥が羽を休める為の休憩場所にすらならない隔絶してしまった場所。
それが外の世界を知らないあの大男が示していた。
だからねハコ、私あの電車に乗ってレールの先に行ってみようと思うの。
ハコは頷いた。
箱型の体で頷いた。
ハコ自身もここでひたすら少女がご飯を食べるだけの日々を送ることを望んでいない少女も望んでいないならば進む先は決まっている。
分かったという意味を込めてキュルルと鳴いた。
それじゃああの大男さんにお話ししてくるよ。
少女はそう言うと立ち上がった、そして男の方に向かって歩き出した。
缶詰ありがとうございます、おかげで久しぶりの食事をした気分になりました。
そうかそれは大変だったなぁ。こんなのでよければいくらでもあげるよ。
いえ、鞄にもいっぱいもらいましたか。
そうかぁ、遠慮しなくていいんだぞ。
大男は呑気に答えた。
飢えを忘れ、危機感を忘れ、数多あるはずの悲しみを知らない目。
そのどれも少女とは相容れなかった。
缶詰をくれた優しさも、無知からくる優しさだ。
感謝はしている、だけど違う。
認識がズレ、今を生きているとはとても思えない。
そう、思ってしまう私は悪い子?。
そんな自問が頭を過る。
それでも少女は進む事を選ぶ。
私、あの電車に乗っていこう思うんです。
あの電車に?どうして、電車に乗ったら危ないよ。
電車はちゃんと止まってくれますし、危なくは無いと思います。
それにあの先に何があるか気になるんです。
そうなのか?、あの先が気になるのか、でも、危ないよ。
危なくても興味があるんです、それにここにいつまでもお世話になる訳にはいきません。
そんな、僕は困らない、ずっとずっといてくれても困らないんだよ。
何だか少し悲しそうな懇願が入っていた。
だが、少女の意志は固い。
私はもっと遠くに行ってみたいんです、だからここでお別れです。
そ、そうなの、そうなるの?ううう、しかたないのかなぁ。
でも、いつでも戻ってきていいんだから、僕は嫌いじゃないからね。
ええ、缶詰ありがとうございました、でも私は歩きたいから。
そうか、それじゃあ、電車、気を付けてね。
はい、ありがとうございました。
少女とハコは再び来た電車に飛び乗ると、ガタコンガタコンと揺られながら、無知で無邪気で悲しく優しい大男のシェルターから旅立った。
作者あとがき
久々に少女とハコを書いた。
GIGAZINE に応募している原作なので忙しく、書けていなかった。
他にも小説を書いているのでこの Web 用の少女と箱は少し更新のスピードを落ちてしまった。
できればもっと早く書きたいのだが、口述筆記で書いている都合上、喉がボソボソしていたり不調な時はできないのだ。
別に風邪を引いていたわけではないのだがこの天候不順と言うか季節の変わり目と言うかそういったもので少し不調になっていた。
まあ新年も明けて一月経ち2月になった。
なので更新しようと思った。
久々に見てみると随分と違う作風になっているなと感じる。
この少女と箱はどちらかと言うと絵本的なノリで書いているから普段の作風とは全然違うだけど、それが面白いとも言える。
普段の作風が見たい人はPixivにアップしているので見てくれ。
もの1という名前だ。
絵もそこそこ、小説そこそこの雑記的アカウントだ。
それではまた
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